
『私たちはたしかに光ってたんだ』 金子 玲介
初めましての作家さんだ。
数年前にデビューされたそうで。
デビュー作の『死んだ山田と教室』は、タイトルは印象に残ってるけど未読。
内容紹介
高校生の瑞葉(みずは)がクラスメイトの朝顔(あさがお)に誘われて結成したバンド〈さなぎいぬ〉。
4人の夢は、いつか紅白に出ること。
荒唐無稽に思えたその夢は、朝顔が初めて作ったオリジナル曲「光」を聴いた瞬間、色を変える。
……10年後、26歳の瑞葉は会社でPCを睨みつけていた。
会計士として激務に耐えているさなか、
休憩時に目にしたネットニュースで、さなぎいぬの紅白初出場を知る。
心から愛し、だからこそ辞めたバンドが、ついに紅白に出る。
高校に入学した瑞葉は、同級生の朝顔に誘われバンドを結成する。
メンバーは4人
室瑞葉 ベース
柏葵 ボーカル
三浦朝顔 ギター・コーラス
広瀬緋由 ドラムス
瑞葉はベースを担当することになり、寝る間も惜しんで練習する。
紅白に出ることを目標にしている朝顔の才能を埋もれさせてはいけない、彼女の足を引っ張ってはいけないと。
その気持ちが強すぎるあまり、他のメンバーにも練習を強要し、険悪になることもあるほどだった。
インディーズデビューを果たしたものの、他のバンドのベーシスト小柴夢乃の演奏を目の当たりにして、瑞葉は自分の限界を知るようになる。
朝顔の夢を叶えるために必要なのは自分ではない、夢乃だ。
読み終えて
音楽をやってきた者としては、とてもとても沁みる物語だった。
瑞葉はベースが上手くなりたくて、朝顔の才能を埋もれさせてはいけないと、ただただ一生懸命に練習した。
でも、真面目に正しく一生懸命に演奏するのとは違うものがあるんだよねぃ。
そういうものがなければ、音楽で生きていくことはできないんだろうなーと思う。
読み始めは情景描写が少なく、会話ばかりで進んでいくような感じだったので「苦手なタイプかも」と思い、なかなか読み進まなかったんだけど。
中盤になって、瑞葉の葛藤が見えてくるあたりから自分と重なって見える部分もあったり。
彼女の心の動きに注目して、興味深く読んだ。
途中、瑞葉が他のメンバー2人に、もっと真剣に、もっと練習するように強要して険悪になる場面があるのだけど、「それはダメだよ」と思いつつも、彼女の切羽詰まった気持ちとか必死な気持ちが伝わってくる。
「才能ってやっぱ、ある人にはあるし、ない人にはないんだよ」
でも、私は努力したから、それに気付くことができた。 (p.187)
この歳になって今さらだけど、この言葉に救われたような気がした。
自分ごとだけど
かつて電子オルガンをやっていた頃、「これで生活できたら」と思って毎日8時間ぐらい練習してた時期がある。
ある時「たぶんどれだけ練習してもこれ以上にはならない。ここが限界だ」と思って、つい結婚して別の道を選んだ。
そういうタイミングだったのだろう。
それ以後も「自分で限界を決めてしまったかな、もうちょっと頑張れたのかな」と思うこともあったけど、「努力したから、それに気付くことができた」と言われると、妙に腑に落ちた。
瑞葉が辞めて公認会計士になっても、かつてのメンバーと交流があることを素直に喜びたい。
素敵な物語だった。

