『未明の砦』太田 愛
ガチの社会派小説です。
物語の展開
第1章 事件
クリスマス前のある日の午後、警視庁組織犯罪対策部の警視、瀬野は今まさに4人の非正規工員たちを逮捕しようとしていた。
彼らの行動はリアルタイムで逐一モニターに映し出されており、逮捕はあっけなく終わると予想していた。
ところが、予期せぬことが起こり全員を取り逃してしまう。
なぜこんなことになったのか。
第2章からは、その逮捕劇に至るまでの4人の暮らしぶりと心情の変化が描かれていく。
彼らは大手自動車メーカーユシマの工場で働く非正規工員だ。
劣悪な労働環境の中で働く彼ら。
会社は都合よく従業員を使い、労災隠しなど日常茶飯事、労災を労災とも認識していない。
正社員も非正規も、働くとはそういうものだと思わされていた。
工場の夏季休暇中、どこにも行く所がなく実家にも帰れない4人を工場の班長、玄羽が空き家となっている妻の実家で過ごさないかと誘ってくれたのだ。
彼らはそこで墓掃除の手伝いをしたり海水浴をしたりしながら親交を深め、思い出を作っていったのだが、玄羽から労働契約法の話を聞き、自分たちが不当な扱いを受けていることを知る。
その後夏季休暇の間中、4人は膨大な書物のある蔵に入り浸り、法律関係の書物を読み漁る。
読めない漢字や言葉の意味を調べながら読み込んでいき、自分たちが置かれた環境がいかに不当であるかを認識していく。
そして、彼らの心に何かが芽生える。
そんな折、自分たちに夏の思い出を与えてくれた玄羽が仕事中に急逝する。
会社に対する不信感に火がつき、彼らは蔵で得た知識をもとに行動を起こすのだが、ユシマの社長と政治家、そして共謀罪を始動したくてたまらない警視庁が絡んで、物語はさらに理不尽な方向へ広がっていく。
読み終えて
ストーリーの展開もさることながら、4人が蔵でどういう書物を読み何を得たか、彼らの考えがどう変わっていったのかが描かれている部分が多く、とてもとても興味深かったです。
規則はあらかじめ先生や偉い人たちによって決められている。その規則にどのような意義があるのかと考える前に、まず従うことを覚える。いや、教え込まれる。最初から自分たちはそのように教育されてきたのだ
P.262
まさしくそのとおりで、コロナ禍の大騒ぎもこういう教育の産物なのではないかとさえ思います。
何が正しいのか、なぜそうするのか、自分たちで調べたり考えたりすることもなく、ただ言われたことに従う。
大企業と政治家の癒着、政治家に忖度する警察。
視聴率のことしか考えず、印象操作や虚偽報道をするメディア。
私たちは事の善し悪しよりも、波風を立てずに和を守ることが大切だとしつけられてきた。今ある状況をまず受け入れる。それが不当な状況であっても、とにかく我慢して辛抱して頑張ることが大事だと教えられてきました。同時に、抵抗しても何ひとつ変わりはしないと叩き込まれてきた。
P.592
しかし、おかしいことに対してそれはおかしいと声を上げるのは、間違ったことでも恥ずかしいことでもない。
「官僚としてキャリアを上り詰めても、この国の政治家の多くは、いわば家業を継いだ坊ちゃんかタレントですからね。政治経済に関しておよそ何の知識もない<先生>に、ひたすら低姿勢で手取り足取り教えて答弁書に仮名まで振ってあげるなんて、私には無理です」
P.582
この国は沈みゆく船だ。泳げる者は逃げ出す。それも道理だと萩原は思った。今に官僚になる優秀な人材はいなくなるだろう。
この類の小説は、権力を持つ者が弱者を潰し、自分の思い通りにして終わるというケースも多いので、最後までハラハラしながら読みました。
スッキリしてよかったです。
ズシンと、読み応えがありました。
太田愛さんと衝撃的な出会いをしたのは3年前ですが、常に社会に警鐘を鳴らし続けているという印象です。
<過去に読んだ作品>
ちなみに、初めの2冊は読了時旧ブログにアップした感想を移行したものです。
3作目の「天上の葦」については、なぜかそのまま旧ブログに放置していたので、もしよろしければご覧ください。
『犯罪者』
余談ですが、ブログ村ランキングから離脱しました。
今まで応援してくださったみなさま、ありがとうございました。
ブログは相変わらず気になることを気の向くままに綴っていきますので、引き続きよろしくお願いします。
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今日も最後までお付き合いくださってありがとうございます ^_^
どうかステキな1日を!