『ボタニカ』 朝井まかて
NHKの朝ドラが「らんまん」と決まったのはいつごろだったでしょう。
おそらく、その情報を知ってこの作品を図書館に予約したのだと思うんです。
長ーい間待ってやっと手に届いた時は、なぜ予約したのかをすっかり忘れていたタカハラ。
かなり分厚いし、パラパラめくってみると「時代もの?なんの話?なんで予約したんだろ」という印象でした。
その時は図書館本が家に氾濫していたので、読めないまま返却してしまいました。
そして、今年4月ドラマが始まる前に、番宣かポスターかで掲載されていた牧野博士の姿が、そのまま本書「ボタニカ」の表紙だったので、その時に初めて思い出したのです。
「これはドラマが始まるまでにどうしても読まなくちゃ」と、自腹で買いました。
結局ドラマが始まるまでには読了できず、今になってしまいましたが。
物語の展開
物語といっても、そのまま牧野博士の人生ですよね。
高知の裕福な造り酒屋の長男として生まれ、植物が好きで家業そっちのけで野山を走りまわるという、幼少期はだいたいドラマと同じような感じです。
ドラマは、史実を元にしたオリジナルストーリーということなので、もちろんアレンジしてありますが。
富太郎はさして気に留めてなかった従妹の猶と結婚しますが、猶とはあまり意思の疎通もなく、植物採集に一生懸命です。
東京に出てからも猶のことを気にかけることはなく、壽衛子と出会い、子供ができます。
猶は富太郎を責めることもせず壽衛子と子供の存在を認め、本妻として何かと世話をします。
その後離婚し、猶は番頭と再婚して岸屋を切り盛りしていきますが、壽衛子や子供たちを支援していたようです。
富太郎は東京大学への出入りを許されたものの、収入はありません。
収入はないのに、研究のために湯水のようにお金を使います。
あまりにできすぎ、やりすぎのため、疎まれたり妬まれたりして出入り禁止になることもたびたびあります。
才能のある人だから、どこかが招いてくれて全くの無職になるということはなかったようですが、とにかく見境なくお金をつかいます。
実家の造り酒屋もなくなり、貧乏の極みで借金を重ねていきます。
借金取りから逃れるため何度か夜逃げもします。
壽衛子さんは質屋の常連で、子供たちも悲惨な状況です。
それでも、落ち込んだり沈んだりせず、浮世離れした富太郎は朗らかに植物のことだけを考えて生活しています。
富太郎55歳、借金でいよいよどうにもこうにもならなくなった時に、彼の窮状が新聞記事になり、ある資産家が手を差し伸べてくれます。
富太郎の標本を買ってくれて借金を完済し、研究所を創設してくれるというのです。
やっと光が見えたのか、これから壽衛子さんも楽になるのかと思ったけど…。
本当にどうしようもない人です、富太郎さん。
壽衛子さんは56歳でこの世を去りますが、その直前に富太郎は今こそ感謝を告げねばならんと「世話になった。有難う」と最敬礼をします。
その後も富太郎は、「惚れ抜いたもののために生涯を尽くす。かほどの幸福が他にあるろうか」と、精力的に図鑑の編纂や講演、採集指導を行います。
読み終えて
たしかに素晴らしい業績を残した人だと思います。
まさに植物学だけに一生を捧げた人だと思います。
ちょうど今ドラマでは万太郎が「自分が描いた絵そのままを印刷したい」と言い石版印刷の修行をするところですが、あらゆることにおいてこだわりの強い人です。
妥協できない人のようです。
わたしみたいな凡人からすると、博士の残したものより博士の生き方がとんでもないと思ってしまいます。
とんでもなく頭もいいし、とんでもなく前向きで積極的で、とんでもなく勝手で周りを見ない。
正直、人としてどうなの?と思う部分もありました。
「らんまん」の主題歌、あいみょんさんの「愛の花」ですが、1コーラス目に
♫ 私は決して今を 今を憎んではいない
という歌詞が出てきます。
あの言葉は壽衛子さんの想いなんだろうなーと思って聴いてます。
本当に憎みたくなるような人生だったんじゃないかと思ってしまいますが、壽衛子さんは心から富太郎さんを愛し、認めていたんですね。
壽衛子の葬儀のあと、猶が言います。
「お壽衛さんは誇りをもって、あなたを支えたがです」
2コーラス目は富太郎さんの想いでしょうか。
大サビの
♫ あなたに刺さる雨が 風になり 夢を呼び 光になるまで
これも博士の一生を表しているフレーズだと思います。
いろんな雨が刺さりました。
大学から排除されたり、ロシアへの留学が頓挫したり、震災で資料が焼けてしまったり…。
この作品を読んであいみょんさんの歌を聴くと歌詞の1つ1つが胸に刺さり、じんわりします。
本より歌の話になってしまいましたが…。
いい歌です。
富太郎さん、いろんな意味でとんでもない人だと思うけど、とんでもなく幸せな人生だったのでしょうね。
ドラマがどう進んでいくのかも興味深いところです。
♫ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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